ユーザー登録
文字サイズ

広報しき 令和元年6月号

わたしたちの健康 「血液腫瘍領域のがん治療」

56/67

埼玉県志木市

朝霞地区医師会/ 山本 浩文(やまもと ひろふみ)

がん治療は、この20年程で著しい進歩を遂げました。今回は、私の専門分野である血液腫瘍領域での典型例をご説明いたします。
ご存知の通り、がん治療は手術・放射線・化学療法を柱として進歩してきました。このうちの化学療法、いわゆる抗がん剤治療は、一般的に強ければ強いほど治療効果が上がります。一方、強力にすることで副作用が強まってしまうため、作用・副作用のギリギリのバランスで治療量が決まるという一面があります。このような限界を超える目まぐるしい進歩が、実際の診療に導入されるようになって来つつあるのです。
その代表は、病気の成り立ちをより詳しく解明し、がん特有の増殖メカニズムを特異的に抑える“分子標的治療”と、“免疫”を介した治療だと言えると思います。
慢性骨髄性白血病は、フィラデルフィア染色体という染色体異常がヒトの病気の原因であると判明した最初の病気です。この異常染色体によって作られるBCR/ABLというタンパク質が、血液細胞の増殖信号を常にONにしてしまいます。細胞が増えるにはエネルギーが必要で、ABLのアデノシン3リン酸(ATP)というエネルギー源が入り込むポケット状の構造部分があります。このポケットに入り込み、ATPが結合できないようにすれば増殖のエネルギーが伝わらなくなるのです。この目的でコンピューター創薬されたのが、イマチニブという内服薬です。それまで移植療法によってしか治らないと考えられていた白血病が、内服治療を継続すれば、高い確率で死に至るものではなくなったのです。
血液腫瘍以外でも同様な作用をする薬が、多数開発され実際の治療に使われています。しかし、全ての患者さんに良好な効果が得られ、長期に副作用なく内服継続できるわけではないこともあり、第2世代・第3世代の治療薬も出てきています。新しい治療薬はより早く、より深い治療効果が得られることも分かってきています。最近、一定以上の治療効果が一定期間以上持続した患者さんの約半数前後で、治療を中止することが出来る事が分かってきました。また不幸にして病気を管理するマーカーが上昇してしまった場合も、同じ治療を再開することでほぼ全ての患者さんで再度マーカーが低下する事、つまりは安全に中止してみることが出来ることも分かってきました。
もう一つは、がん免疫の理解により、さまざまな治療が開発されていることです。昨年、ノーベル医学生理学賞を受賞された本庶(ほんじょ)先生のお仕事は、がん細胞が免疫の攻撃を免れる機構に関するものです。これを基に治療薬として開発されたのが、「わたしたちの健康」の他稿でも取り上げられているオプジーボです。他にも、元々ヒトが持っている免疫を使って治療に役立てる“モノクローナル抗体”や、免疫調節薬と呼ばれる一連の治療薬も登場しています。抗体が結合する事で、免疫反応によって腫瘍細胞を攻撃したり(細胞表面マーカーCD20陽性B細胞性リンパ腫に対するモノクローナル抗体リツキシマブ)、免疫調節薬によって免疫を担当する細胞を刺激して、治療効果を期待します(多発性骨髄腫に対するサリドマイド・レナリドマイド・ポマリドマイドなど)。
代表的な血液腫瘍治療の進歩について、簡単に説明しました。これらの進歩は、がん及びがんを取り巻く環境や増殖メカニズムの詳細な解析・基礎的な研究に基づいており、今後もより負担が少なく、効果の高い治療法が登場してくることは間違いありません。

問合せ:朝霞地区医師会
【電話】048-464-4666

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-21-11 山竹ビル